薬剤関連顎骨壊死③

⑦MRONJの発症頻度
薬剤によってバラバラです。

BP製剤では?
癌疾患の骨転移に使用する高容量投与の場合はリスクはあがります。
AAOMS(アメリカの学会)の2022年お報告では、5%未満とされています。
日本での報告では、1.6~12.4%とバラつきがあります。

国際的には骨粗しょう症についかい低用量の場合は頻度は低く、0.001~0.01%程度とされています。
これは、BP製剤関係なく、抜歯などを行った際に骨壊死の発症率が0.001%未満とされています。
そのため同等か、わずかに高い程度と認識されています。
なので、整形外科学会などは、骨粗しょう症に使うBP製剤の骨壊死リスクはほぼないと判断されています。
AAOMSでも同様な報告がされていますが、日本人の骨質というものがあります。
日本での統計は、様々ありますが、BP製剤内服患者の骨壊死リスクが0.104%と高いです。
薬剤関係ない骨壊死リスクが0.0004%だったとされており、欧米より高い数値となっています。

このように日本での発症リスクは高いとされる報告は他にもさまざまあります。
同様に台湾人でも高いとされています。
アジア人においてはリスクが高いのでは?と思われていますが、結論付けはまだ出来ないです。

デノスマブでは?
高容量投与での報告では、様々あり1~2%程度とされるものもあり、他には3.6~33.3%という報告もあります。
一見、デノスマブの方がBP製剤よりリスクが高いようにも見えますが、まだ結論は出ていないです。

前回記載した現西部医療センターの加藤部長に引き継いで頂いた研究では、私がやっていたころからデノスマブの方がリスクが高い傾向にありました。
最終的には、BP(ゾレドロン酸)製剤が1.9%、デノスマブが9.1%でした。
これでも一見はリスクに差があるように見えますが、この研究結果だけでは一概には言えないというのが、現状の結論です。

低用量使用量では、日本では事前の臨床試験で0.2%と報告されており、そのほかの研究でも0.133%とされています。
国際的には、BP製剤同様に低用量の場合は、ほぼリスクとならないという判断ですが、日本では高いという見方もされています。

⑧MRONJを予防するには?
あくまでポジションペーパーですので、見解であることを十分に理解する必要があります。
こうすれば、大丈夫という話ではないです。

高容量投与の場合は、前述しているようにほとんどの研究で1%以上の発症リスクを示しています。
1%というは非常に高いリスクです。
そのため、投与前に可能であれば、歯科受診を行い、リスクとなる歯牙は全て処置をするべきであるというのは医科歯科ともに共通の認識です。
ただ、抜歯処置などを行い創部の経過をみるのに最低でも3週間ほど欲しいというのもあり、全てが事前に処置できるわけではないという現状です。
少なくと歯周病管理などは厳重に行うべきだと思われます。

で、実際の診療所でよく対面するの骨粗しょう症でBP製剤を内服している患者さんです。
抜歯が必要になって、休薬って必要ですか?って言われます。
正直申し上げて、まだ不明です。
ポジションペーパーの文章をそのまま
「休薬による利益が得られないとの結果から、現状において休薬の有用性を示すエビデンスはなく『抜歯時にARAを休薬しないことを提案する(弱く推奨する)』とした」
※ARAはBP製剤やデノスマブ

つまり、休薬しない方がいいんじゃないかなという弱い見解です。
これは、せっかく骨粗しょう症のために内服しているのに、休薬して骨密度が低下して骨折したら元も子もないではないかといことです。

薬剤別でみてみます。
BP製剤の休薬は「長期投与例でも抜歯時の休薬による利益が示されていないものの、BP製剤投与が3年以上の患者では、患者の安心を高める意味で一考の余地がある」
デノスマブは、休薬でが長期になると椎骨骨折が増加する可能性が示されており、デノスマブにおいては中止しないことが望ましいと考えられています。

ここからは個人的な見解を書きます。
骨粗しょう症におけるリスクの話です。
骨転移などで使用する高容量は、話がややこしくなるので今回は割愛します。
日本人では欧米での報告ほどMRONJのリスクは低くないと考えています。
なので、BP製剤内服患者において考慮しなくて良いとは考えていません。
しかし、休薬は必要ないと考えています。

完全なる個人的な考えですが、休薬してもあまり意味がないと思っています。
BP製剤は、前々のコラムに書きましたが、骨の中に吸収され、それが破骨細胞に効果を示します。
骨は毎日代謝をしているものの、骨が全て代謝されるには数年単位でかかるとされています。
つまり、数カ月休薬したところで、あまり意味がないと考えています。

デノスマブは、半年に1回の投与のため、投与から4か月目に抜歯を行います。
デノスマブの骨粗しょう症で使用される薬剤は、プラリアという薬剤があります。
代謝期間などは、不明とされていますが、血中濃度は数日もすれば排泄されます。
サル研究では生体内の異化により消失していくと推察されています。
モノクロール抗体が長期間身体の中にとどまるとは思えないと考えています。
この4か月目頃というのは、ポジションペーパーにも言及されています。

ただ実際の臨床では、気付いたら整形外科側で休薬が始まっていたり、患者さんの強い希望があったりと、個別に考えています。
患者さんの骨密度の現状などが一番大事で、そこから考えましょう。
3回わたり、かなりガチコラムを書きました。
分からないことがありましたら、一度ご相談ください。

 

院長
前田道徳
名古屋市立大学口腔外科に研修医から10年以上勤める。
同大学の医学博士。
日本口腔外科認定医。
米の木まえだ歯科
日進市米野木町丁田119-4

2025年12月01日